第4話 「一人親方」の社長がしておく「もしも…」対策 (後編)
前回に引き続き、「一人親方」の社長がしておく「もしも…」対策についてお話をしていきます。
前回は、顧客管理のシートと、社長の日々の業務の棚卸しについて、
「自分が見たら分かるレベル」に仕上がっている。とお伝えしました。
社長自身が入院をしてしまうなど、まったく話もできない状態であれば、
その「1枚」のシートなり、リストは「あることさえ気付かれない」でしょう。
「これを見てね。」と言っておいても、さらにその先が続かなければ意味がありません。
⑴誰が見てもわかるレベル
書き出した顧客情報は「パソコンに入っている」のか「書棚にある青色ファイル」にあるのかといった「ありか」も必要ですし、
パソコンなら「パスワード」が必要かもしれません。
クラウドにアクセスするといいのか、USBに用意してすぐに渡せるよう、ファイルと一緒に用意しているのか…など。
リストをさらに、行動につながるレベルにする必要があります。(私の場合は印刷してファイルに入れて書棚の端に立てて、引継ぎのスタートをしてもらえるようにしています)
「このセットを〇〇さんに渡す」と「それはどこにあるのか?」まで行動に落とし込める情報が必要です。
業務の担当者の連絡先が分かるように赤文字にするなどもいいですね。
また、業務の契約書があれば、引継ぐ人が「業務範囲」などの重要部分も分かるようにしましょう。
そのまま引継ぐのであれば、新たに業務の契約を結べばいいのですが、突然の引継ぎは、前と同じようにしてもらわないと困りますね。
⑵ 3W1Hが必要
自分にもしものことがあって(突然死と考えておきましょう)、まず最初に身の回りを片付けてくれる人(家族としましょう)に、「どこにある(where)」「何を(what)」「どうすればいいか(how)」を伝わるようにします。
家族には、葬式がすんだら…という「when」も必要です。
このような行動の指示書は「パニック状態の人が動けるツール」になります。
それでは、動いてくれる人の区別から、
①業務を引き受けてもらう人に届く準備(まず家族への準備)
業務のバトンタッチのスタートとして
「どこにある(デスクの引き出しにある…とか)」
「何を(青ファイルのリストを見て…)」
「どうするのか(書かれている人に連絡する…など)」を指示し、
②引き受けた人が業務を途絶えさせないための準備
連絡をもらって預かったものから
「どこにある(USBや青ファイルなど)」
「何を(〇〇というファイル名のものを見て)」
「どうしてほしいのか(期限までに許可を取ってほしい…など)」を依頼書として残す。
さらに注意点は
③特に注意する「クレーム回避情報(以前にクレームになったことなど)」は、
目立つように示しておくこと。
これは引継いでくれた人が、「同じ業務ができる人」というのが前提です。
なので、引継ぐ人を選定するところから、
「事前のお願い」とか「その時にダメなら、この業務ができる人へ…」というメッセージの用意も、社長自身で準備する必要があります。
また、顧客にも「情報漏洩」だとされないように、
事前に「万が一自分が動けない場合は、代理が立つ場合がある」ことについて、
承諾をいただくことも必要です。
口頭の了承であれば、承諾済みの記録を引継ぎシートに入れておきましょう。
最初に契約書の段階で書き加えておくとなおよいでしょう。
また、ありがたいことに「あなただからお願いしているのに…」ということもあります。
その場合は、「もしもの時は、お客様に業務を差し戻す」ことになります。
お客様が、次に「やってもらいたい人」がいるかもしれないので、
そこは「代理が立ちますよ」というときに確認が必要です。
緊急時の対応では「最低限目的が達成される」ことだけに集中すればいいのです。
「簡単でも、分かる程度に」伝える準備をしましょう。
⑶指示書の準備
指示書とは、家族がどうすればいいのか分かるものです。
仕事の続きを引き受けてくれる人に届くように指示しておくことに加えて、
「残したものをどうするのか分かる」ように指示することが必要です。
先に出た「何を、どうするのか?」の「仕事版」とは別に「家の人版」が指示書になります。
業務で残った資料は、すべて処分するのか、
残された「技術」や「設備」が使えて、あとの業務をしたいという人がいるのであれば、
「〇〇さんに後のことは任せる。」など指示書に書いておくと、
「価値があるもの」として後に引継いでいくこともできます。
一人親方でも残していけるものはありますね。
指示書には、社長としてだけではなく個人としての「後の処理」も含まれてきます。
特に秘密情報がたくさん入っているのは、パソコンや、スマートフォンだと思うので、
この情報をどうするのか。
金融口座の動きをどうするのか、
契約していたものを早く解除しないと、どんどんお金が引き落とされて
相続財産が減っていくことにならないか…など。注意することはたくさんあります。
相続に係るものはきちんと指示しておきます。
指示書を用意するのは「見てほしいもの」と「見られたくないもの」を
最初から区別しておく目的もあります。
自分にしかわからない情報でも、残された家族などに迷惑がかかるものもあるので、
自分のシークレット情報の棚卸しをして、
必要なところだけ「お願い…」と家族に宛てて作るのです。
自分でできるのであれば「プライベートな世界」も守っておきたいですし、
見ないまま「処分してOK」としておくと、作業をする人も楽ですしね…
⑷タイムラインで集中させる
指示書にはタイムラインが必要です。
何から順番にしていくのか…のモノの「ありか」を写真で示すとか、
手順を図にしておくと間違えにくく、
パニックになった人でも冷静に「あなたからのメッセージ」として対処して
進めてくれるはずです。(多分…そうだとうれしいのですが…)
つまり、
優先順位の高い作業からタイムライン(「when」)とともに
「どこにある(where)」
「何を(what)」
「どうする(how)」を用意しておく。
そして処理の順番と項目が分かりやすいように
①〇〇の支払いをする(住宅ローンや通信料など銀行口座が止められても、支払は止まらないようにする)
②〇〇に連絡する(介護など、どなたかのお世話をしていたら、その人が困らないようにする)
③その他「残された人が困らない手続き(保険の請求など)」の手続きを継続するための内容
さらに、財産の減少を止める順番と項目の指示も必要です。
①〇〇に電話(メールなど)して、亡くなったことを伝えて、解約する。とか、
②〇〇のアプリやサブスクリプション契約をしているところの解除をして支払いを止める(アプリは携帯電話を解約すると勝手に止まるものかどうかが分かりませんが…)。
※ここで、通帳のない「ネット銀行」の利用があれば、操作の注意を入れておきましょう。(PCやスマホから見てもらわないといけませんからね)
③〇〇協会に連絡して、自動引き落としを止める。
など、支払時期や金額、連絡先は前回の「棚卸し」でリストを書き出したものがあると思うので、
さらに、その対処する順番を指示書として用意するのです。(誰が見ても分かる程度に…というものですね)
IDパスワードやロック解除が必要なものも入れておきましょう。
⑸「格好のいい人生」の締めくくり
このように、自分が分かる程度のリストから、実際に自分がいなくても残された人が、
解約や継続をしていけるように書き残しておきます。
それが「社長」として生きてきた人生と
「誰かをお世話してきた人」としての人生、
そして「私自身」としての人生を
「手仕舞い」する準備をしていくことになり、
エンディングノートや遺言書としてではなく、
それより早く動かなければならないことに対処できる、周りの人を思った指示書になると思います。
私はこれが「格好のいい人生」の締めくくりになるのかな…と考えています。
今回は「一人親方」の社長に向けていましたが、これは従業員のいる社長も全く同じところがあります。
仕事の後処理をしてくれる人が多い…という「動きやすさ」が違うだけで、
プライベートの指示書については、まったく同じだと思います。
トップとして走り続けてきた人は、
是非『自分の「もしも…」対策』を進めてみてはどうでしょうか。
それでは、今日はここまで。