第9話 事業承継でゴールから決める理由
人は恐怖を感じたときなどに何をすればいいのか分からず、頭の中が真っ白になることがあります。
これは、今まで経験したことが無いような場面に出くわすと「こんな経験は過去にしただろうか…」「こんな時はどうすればよかっただろうか…」と今までの経験から行動の糸口を見つけようとして動けなくなる現象です。ほんの数秒という人もいれば数十分も動けないという人がいるそうです。
⑴ 事業承継も「ゴール」が必要
そして、私たちは地震が起きたときに「机の下にもぐる」とか揺れがおさまったら安全なところに避難する。という行動訓練を何度もしたことだと思います。
本当に地震が起きると、津波警報が発せられると、土砂災害警報で避難指示が発せられると、きっと恐怖は感じるに違いないでしょう。
しかしすぐに「行動のスイッチ」が押せるよう、何をすればいいのか(恐怖をいったん忘れさせるための行動を)「脳」にインプットし、体に(脳に)「迷うことなく動く」という指示が出せるように何度も刷り込ませていく必要があります。人は平常心でありたい生き物なので、すぐに忘れようと頭が働くのです。
行動を決めてゴールを目指すからこそ、「恐怖」や「平常でいたい」という感情に揺さぶられずに進んでいけるのです。
これは、事業承継も同じことが言えます。
恐怖というものではないけれど、事業承継には「感情」を揺さぶられることがたくさん出てきてしまいます。
迷ったり、怒りがわいてきたり、悲しみを感じたり、結局「平常でいたい」を優先させて動かないこともあります。
経営に必要な「資産」や「権限」などを引継ぐときには、人の本音が見え隠れし、予想もつかなかった言動をする人もいたりします。
積み上げてきた信頼もお金が絡むと簡単に崩れてしまったり、事業承継の本当に目指していたゴールが見えなくなってしまうこともあります。
家族や親族間では、自分の争族財産をめぐるモメゴトが起こってしまい、「自分が死んだ後のことまで考えて生きているうちに片付けなきゃいけないのか…」とため息をつかれる経営者もいます。
⑵ 生命をつなぐ作業
事業をつないでいくことは、その商品やサービスで助けられる人がいるということ。
そして、働く人たちの生活を守っているということ。
自分たちの生活資金のためにも、事業を途絶えさせないようにしなければなりません。
これは、後継者へのバトンタッチという作業の中に、どれほど感情が揺さぶられるようなことがあっても、ゴールに到達するためには、立ち止まっても、道を変更することがあっても、迷わないようにゴールに向かって前進するしかありません。
⑶ 経営者の覚悟
人生で限られた人しか経験ができない「事業承継」は、それができる経営者に「覚悟」が試されているのだと思います。
将来を考えて事業を閉めてしまうのか、未来につなげる事業を繋いでいくのか。
事業の引継ぎを考え、準備する中で、経営者としてスタートしたころから今までを振り返ることがあります。
ピンチを助けてくれた人もいたでしょうし、応援してもらったご恩に、「ありがとう」が伝えられる最後のチャンスがきっと「事業承継」の時なのだと思います。
「自分一人でやってこれたのではない」ということを再確認しながら、「こんなところで失敗してはいけない…」と想いが固まるのではないでしょうか。そのために事業承継は丁寧に時間をかける必要があります。
事業を始めたころの「ビジョン」や「経営理念」は、事業承継で一旦区切りとなる「自分のゴール」に一本の線でつながっているでしょうか。
「飛ぶ鳥、後を濁さず…」というように、経営者の「第2の人生」のスタートのためにも、「事業の成長」や「生き残り」を実現可能にできる準備をしてから引継いでいく必要があります。
もちろん、引継いだ後の責任は後継者がとることとなり、次のゴールに向かって走り始めていきます。そのステージでは、前経営者が思った通りでなくても口を挟んではいけません。
自分の命を守る緊急事態の行動のように、感情に揺さぶられて、道を迷ってしまわないよう、また、人のせいではなく自分の責任で「事業承継」のゴールを目指していくことが、経営者人生の終盤に背負う大きく、重たい役割なのだと思います。だからこそ、体力があるうちにコツコツ準備が必要だと思います。
それでは、今日はここまで。

