第10話 事業承継にブリッジを使う方法
社長である父親がなくなり、急遽子供が後を継ぐ。ということはよく聞くと思います。
しかし、子供がいてもそう簡単には引継ぐことができない業種もあります。
医療機関では、医師の免許が必要ですし、同じ患者さんを診るためには診療科目も同じでなければいけません。
建設業も経営業務の管理責任者として要件があり、5年という経営に携わっている実績が必要です。その実績がなければ誰かもう一人要件を満たす人を雇わなければ事業を引継ぐことができないのです。
⑴ 引継げない時のブリッジ役
4年以上前になりますが、建設業の後継者問題にかかわったことがありました。
その会社ではお父様が亡くなる前から息子さんが会社には入っていましたが、経営業務管理者としての経験年数が足りず、社長の肩書を受け継ぐことができませんでした。
お父様が創立者で、周りにいる従業員もたくさん高齢になっていましたし、金融機関の融資を受けるにしても、新しいチャレンジに設備を入れるにしても、若い後継者の方が求められていると思うのですが、経営経験の要件が足かせとなってしまいました。
しかしここには、ずっとお父様と一緒に経営業務に携わっていた方が一人いました。
その方も引退をして隠居生活を考えていたようですが、何とか息子さんが要件に合うまでつないでもらえるようお願いをし、受け入れてもらえました。
後継者が決まっていても、そこに繋げるためには、「ブリッジ(橋渡し)役」として期間限定で経営者の肩書を誰かに引継いでもらい、後継者の準備が整うまでつないでもらえうことは廃業を止めない1つの方法でもあります。
⑵ 医療法人のトップには医師ではない者もあり得る
医療法人の理事長である院長が急に亡くなった場合は、特例で医師ではない院長の配偶者が医療法人のトップを務めることが認められることもあります。しかし、これはお子さんが医学部に在学中で医師になるまでの間…などといった限定的なものです。
一人医師で医療法人をしているところもあるので、院長に何かあると、患者さんや従業員も困ってしまいます。
イザというときに、数か月でも従業員が代理で引継ぎができるように「時間稼ぎ」にしかならなくてもブリッジ役を考え、同じ診察ができる医師を派遣してもらうなどして患者さんや従業員が安心できるような方法を考えておく必要があると思います。
期間限定のブリッジ役には、要件に合う「人」さえいてくれれば何とかなるのだと考えてしまいますが、この「要件に合う人」がいても、建設業の人のように「つないでくれるのか?」という気持ちの部分でうまくいかどうかが決まるのです。
⑶ 中継ぎには契約書を
経営者とは契約を結ぶことができ、損害賠償を請け負う必要もある人物です。
今、未成年の子供に後を継いでもらいたいと考えていても、事業に係る契約や賠償責任などの役割を果たすことができなければ、やはり「ブリッジ役」として中継ぎの経営者をお願いすることになります。それは第三者に経営権を渡したくないと思っていても、その人が負担を背負ってくれることに感謝して、しばらくの間の採るべき手段の一つに入れておくべきだと思っています。もちろん、契約書で「期間限定」の条文は書き入れておく必要がありますが…
事業承継では「要件に合う人」を見つけることと、「その人の気持ち次第」に任せるのではなく、あとを繋ぐ人を「応援し、支えていく」という周りの人の気持ちが、その後継者に伝わらなければいけません。今まで走り続けてきた事業を引継ぐということは「応援や支え」が無ければ、会社の未来に起こりえるリスクを背負う勇気も持てないのではないかと感じます。
事業承継は、後継者がいれば勝手に引継いでいくバトンタッチではなく、周りが支えていく決意を再確認するための重要な機会ではないかと思っています。
それでは、今日はここまで。

