第11話 突然交代になった後継者が守り続けているもの
昔は精肉店で商売をしていた駅前のお店。
そこは商店街の入り口で、中に入っていくとお花屋さんやお豆腐屋さん、八百屋さんや本屋さん、パン屋さんまであって賑わっていたところでした。
しかし、もうずいぶん前から商店街を歩く人も減り、店主は高齢になり、代替わりをするところや、店を閉めてしまうところも出てきました。
⑴ 突然の後継者交代
その精肉店ではご両親が切り盛りしていたところを、後継者候補に次男がお店を手伝うことになりました。
しかし、次男は40代でがんを患い、病気の発見からわずかな闘病生活で亡くなってしまいました。
ご両親はまだまだお元気な様子でしたが、いつの間にか、そのお店を長男が引継いでいました。
内気で小さな声だった印象の長男は、今では「まいどあり~!」や「こんにちは!ひさしぶりですね~!」とお店の大将としての貫録も備えて、お店の前を歩く人に声をドンドンかけていました。
⑵ 後継者は知恵を絞って売り上げアップ
商店街の活気はなくなっていましたが、駅前だという利点を活かし、わずかな入り口スペースを改築して揚げ物コーナーを始めました。
精肉店ならではできる、お肉の持ち帰りだけではなくコロッケや、メンチカツ、チキンカツなどを、揚げたてホヤホヤを歩きながらでも食べられるように1つ1つ小分けに販売を始めたのです。
子供から高齢者まで、駅で電車を待つ人にまで客層が広がりました。
閑散とした商店街の入り口では、昼と夕方の1日2回、熱々のコロッケを買い求めに長蛇の列ができるほどになりました。
⑶ お店を守るための基本とは
夕飯時になる2回目の揚げ物コーナーには、やはり揚げたてのコロッケやトンカツを求めに長蛇の列ができます。
店主は精肉担当でお客の対応をし、若い従業員が1人でスペースいっぱいの小さなブースで揚げたてコーナーを担当しています。
注文を取って、それから揚げはじめ、タイマーとにらめっこしながら、ドンドン揚げた品物を袋詰めし手渡しする。番号札を持って、常連さんは当たり前のように近くの人とおしゃべりして待っているけれど、早く電車に乗っていきたいお客は「まだですか?」とせかしてきます。
店主は従業員が精いっぱいしていることを知っているので、「早くしろ」というわけでもなく、「すいません、もう少しでできますので♪」とニコニコとぎゅうぎゅう詰めのブースに入ってサポートに回る。
看板には「うりきれまで」と1日の数を決めていて、売れるだけ売ってドンドン稼ごうとはせず、従業員も時間になれば、お客が来ても帰ることができます。
この店の事業承継は、突然の後継者交代にも適応でき、閑古鳥が鳴く商店街で事業を拡大。
その挑戦の結果、長蛇の列になるほど売り上げることに成功しました。
⑷ 頭を下げるのはトップの役目
売り上げももちろん必要だけど、商品が終わりに近づくと店主が列の最後尾に立って、ドンドン並ぼうとするお客に「本日はここで終了なんです。スイマセン…」と頭を下げて断っていく。それも次につながるように丁寧に断ります。
頭を下げることも自分の役割だとして、そこで働く従業員も大切にしていることがうかがえます。
個人商店の店主は、地元の人たちの様子伺いもしながら見守り、そこで働く従業員を大切にすることを商売の根っことしているようです。
内気で、小さな声だったはずのお兄ちゃんが貫禄のある後継者となり、従業員や常連さんという資産を積み上げていくようになりました。
このお店では、存続し続けるために必要な「人を守る」ことが気付かないうちにできている企業なのかもしれません。
それでは、今日はここまで。