第14話 事業承継では「人間関係」を考える
事業承継で後継者に引継いでいくものには設備や不動産、お金などの資産、長年積み上げてきた技術の他、経営に係ってくれている従業員、さらに取引先やごひいきにしてくれているお客様という「人」も引継いでいく必要があります。
勝手に経営者が後継者に「はい!これが名簿ね。」で終わりになるものではなく、人に係る引継ぎは丁寧に進めていかなくては事業承継が失敗に終わってしまうこともあるのです。
⑴ 簡単ではない事業承継の「人間関係」
事業を続けていくためには、従業員や取引先との連携も必要になります。
後継者として長く組織の中で働いていると、気心も知れて引き継ぎやすいという場合もありますが、やはり「社長」として考えた場合は「話は別」となる場合も多いわけです。
例えば、普段からの言葉遣いだったり、営業先での評判だったり、顧客対応や手際の悪さだったり、従業員はとてもシビアに社長像というものを考えています。「今の社長だってそうなんだから…」ではなく、新しく社長が変わるとなると、「今まで我慢してきたけれど…」という期待もあったりするのです。
今までの社長と同じようにしておけばいい。というものではなさそうです。
自分や自分の家族の将来を左右する立場にいる人が、周りからの評判が悪かったりするのは嫌ですものね。
⑵ 事業承継には事業承継計画書という「設計図」が必要
後継者には事業を引継ぐ覚悟をもって望んでいただかなくてはいけません。
そのためには事業承継のための計画表を作る必要があります。
社長のバトンタッチをゴールとした時から逆算して、どのような問題を解決していかなくてはいけないのか、その解決にはどういう方法が良くて、順番は何から進めることが適切なのか。そして、どのくらいのお金や労力が必要なのか…など、あらかじめ設計図を用意しておかなくてはいけません。
設計図があると、ゴールに向けて手落ちがないことと、期限に間に合うのか進捗も確認できたり、途中でトラブルがあった場合にゴールに向かう道のりを迷わず軌道修正することもできます。
⑶ 事業承継計画書に含まれる「人」への対応
事業承継計画表には従業員や取引先に対しても新しい社長のお披露目を予定しておきます。
いきなり「明日からこの人が社長をします」というのではなく「後継者」としての紹介がまず先に必要です。
「社長交代によって、皆さんに迷惑をかけたりしないようバトンをしっかりつないでいくのでよろしく…」ということと「引継ぎまでに不都合があれば相談窓口である現(まだ)社長の私に言ってきてくださいね」という「お知らせ」のようなものを含めてのお披露目(紹介)です。
これは、契約でつながっている方々に対して、きちんと手順を踏んで了解をいただくために、「聞いてないし、承諾なんかしてないよ…」と言われないように、そして、予告通り決まった折には文句を言わせず後継者を社長として対応してもらう。というものになります。
嫌なら、それまでに意見を言うなり契約を終了するなりの対応を考える時間を与えるというものです。
しかし、契約を終了されたりしないように、丁寧に後継者選びもしなくてはいけなくて、「継いでくれたらそれでいい」ではなく、事業を存続させるためにも注意が必要なのです。
⑷ 後継者として認められない
ある、歯科クリニックでは、外部から来た歯科医師が後継者として認められなかった事例があります。
従業員に対して「あの先生に家族を診てもらおうと思うか?」尋ねると「それはしたくない」という返事が多かったということです。
診察の評判や技術、従業員に対しての振る舞いなど、そばで見ている人からこのような返事が返ってくるということは、今後の診療を任せるわけにはいかない。と判断されました。
後継者不足で「誰でもいいから…」と考えてしまっては、バトンを渡した現院長の評判まで「従業員や患者のことは考えていなかった先生」と言われてしまうかもしれませんね。
引退後も地域で生活をされるのであれば、なおのこと従業員や患者さん(お客さん)のことまでを考えた事業承継を成し遂げなくてはいけません。
そのためにも、後継者としてふさわしいのかを「見てもらう時間」も必要になるため、ある程度の期間を考えて事業承継計画書を用意していく必要があるということです。
それでは、今日はここまで。

