第15話 事業承継にかかわる「お金」の問題
法人の財産となるものには様々あります。
機械などの設備や、土地、社屋などの不動産、株式や預貯金などのお金。
株式会社であれば財産を一株当たりの金額にして、後継者は引き受ける株式数の額で買い受けます。もしくは贈与や相続などで引き受けることになります。
「持分」がある医療法人では財産を出資持分の割合で分けられて財産を引き受けることになります。
⑴ 税金対策が事業承継を苦しめる
財産の引継ぎをしなければいけない後継者は引き受けるための資金が必要で、贈与や相続であってもやはり税金のための資金が必要になります。
平成19年4月1日以降に設立する医療法人は「持分なし」の法人しか設立できなくなりましたが、それまでに設立した医療法人は、出資した当初のお金より莫大な資産に膨れ上がっていることが多く、後継者が持分財産を引き受ける場合、譲渡であっても贈与や相続であっても多額の資金が必要になるでしょう。もしも、膨れ上がった資産に見合わないほどの額で引き継いだ場合には、贈与をしたと考えられ贈与税の負担が必要になります。
⑵ 事業承継での財産の引き継ぎ方には…
後継者が財産を引き受けるためには、評価される財産価値が低額であれば、準備する資金も少なくて済みます。
この考えから、資産価値を下げるために、先に経営者に退職金を支払ってしまう方法を考えます。引継ぐ財産が減った段階で譲り受けて支払う資金を低くし、その後に、退職金や死亡保険のために用意していた保険金を請求(解約など)して、法人に資金を戻す方法があります。
これは、株式価格や医療法人の持分の算定時に取る方法で、手順を間違えてしまわないようにしなければいけませんし、企業によっては純資産額を減らしてしまうと許認可や入札参加資格にかかわりマズい場合もあるので注意が必要です。
法人の資産を減らさないために「退職金はいらない」と考える経営者もいるようですが、それは引継ぐ後継者のためにも、家族のためにも受け取っておくほうが良いお金です。
なぜなら、ご自身の将来に使われるお金としてだけではなく、その資金を古くなった社屋の建て替え資金にして法人に貸し付けることができたり、家族への相続財産として残すこともできるからです。
⑶ 遺産分割を考えた事業承継
財産を引継ぐ場合は経営者や後継者の税金対策を主に考えますが、実際はそれだけではなく、経営者は、後の問題となってくる相続人のための「遺産分割」や「相続税対策」を考えておく必要があります。
これは、法人の不動産を売り払って相続税を支払わなくてはいけないことを避けるために考えておかなくてはいけません。
経営に必要な財産(不動産)を「相続税の支払い」のために売られてしまっては困りますし、売らなくては相続を受けた個人の生活が困る場合や、経営に係っていない人が相続で受け取っても、使いようがなければお金に換えてしまうでしょうから、経営基盤が揺らいでしまう心配もあります。
⑷ もめないように事業承継を準備する
経営者は、引継ぐ後継者の負担を軽くするために、法人名義で保険を積み上げておいたり、自分の死後に残された相続人が税金で困らないように、また、法人の不動産が売り払われてしまわないように、お金の用意や相続財産の分割方法も考えておく必要があります。
現在、遺留分については、相続人全員の承諾を得て法人の財産を除外できる民法の特例や、事業承継にかかる税金の猶予など期間限定で特例が設けられています。事業承継への決断を期間限定で背中を押す機会と考えられるといいのですが、税金や法人財産を守るために気持ちの整理を「えい!や~!」的に進めていかなくてはいけないというのも、なかなか勇気がいることなのかもしれません。
それでは、今日はここまで。