第19話 事業承継で考える重要ポストはもう1人…
事業承継で気にかけることとして「人」の関係性を良好に進めていくことが重要だとお伝えしてきましたが、小規模の事業所では、ご家族で経営している所も多いと思います。
後継者が子供であったり、経理・事務担当は配偶者、という家族が事業に係っていることもよく聞きます。
医療機関でも院長先生の奥様や娘さんが、従業員の入退社手続きなども含めて経理・事務を担当していることもよくあるのです。
今回は個人医院での事業承継を考えてお話をしようと思います。
⑴ 院長先生の世代交代だけではない
事務手続きを院長の奥様や娘さんなどのご家族が担当し、資金繰りや従業員の個人事情もよく知っていて、むしろ院長先生より従業員家族にも寄り添ったサポートをしてくれている場合があります。
院長の奥様が経理関係を担当している場合、院長の世代交代と同時に退任されることも多くあります。後継者探しは、院長先生と、経理・事務を担当してくれるその奥様のお仕事もセットで交代できるように考える必要があるのです。
それは、医院が高額の医療機器を買い入れたり、医院の不動産を購入する際に、金融機関から融資を受けていることがあり、院長個人が連帯保証になっていることもあるのです。つまり、返済の資金繰り、保険の加入、退職金などのお金について個人の資産と結びついていて、いくら支払いが残っていて、毎月いくらの保険料を支払っていて、退職金はいくらもらう…など懐具合が分かるということです。
後継者も同じように自身の資金と受け継ぐ資産(返済の継続など)とが紐づくようであれば、お金に関する情報を開示してもよい人を補佐でついていると安心だと考えられています。
⑵ 後継者が独身であればどうする?
後継者がお子さんで独身であれば、(大きなお世話だろうけれど…)結婚の予定や、婚約者がいるのかなどの確認も必要なのです。「経理を担当してもらえそうなのか?…」
高齢の院長先生が引退を考えるとき、奥様も同じように引退を考えますが、もしも、お子さんが院長先生の後を継ぐことになった場合、奥様(この場合お母さんですね)がまだお手伝いをすることはできたとしても、交代人員を考えてあげなくてはいけません。
長く地域に寄り添って開業していた医院は、地域の子供たちから高齢者まで、それこそ何世代にもわたって診てきているでしょう。
通院している患者さんにとっては「なくてはならないお医者さん」であり、たくさんの大事な情報を管理してもらっているので、途中で廃業されると一から病院探しで不安になる人や、生活スタイルが変わってしまう人も出てくるでしょう。
高齢者は遠くの病院へバスやタクシーで行くことになったり、変わった先の医療機関で今までと違うお薬に変えられて不安を感じる人もいるかもしれません。
医療機関の事業継続は地域の人の人生を変えてしまうほどの役割を持っているため、何としてでも廃業は避けたいものです。併せて、治療に専念する院長をサポートし、経営の舵取りも考えてくれる経理担当者の交代も重要案件なのです。
⑶ 医療機関の後継者は狭き門をくぐり抜けている
医療機関の事業承継は誰でも引き受けられるものではありません。
お子さんが親の背中を見て「自分がこの病院を引継いでいこう!」と考えたとしても、医師免許や研修医の経験も必要で、同じ診療ができる科目選択も必要であり、一般企業の後継者探しよりも、ドンドンと適任者が狭められていくものです。
さらに新たに経理事務も交代を考える必要があれば、後継者の配偶者やそのご家族にも声をかけることも必要です。
もしも後継者へ変わるときに経理担当者が決まらなければ、事務スタッフを新たに雇う必要があるかもしれないし、資金関係は戦略的な意見を出してくれる税理士に任せるなどの人選も考えていかなければいけません。
普段の医療の提供と同時にこのような後継者や経理事務への引継ぎも進めていくということは、なかなか大変なことになるでしょう。
つまり、「突然引き継ぎが必要だ!」という医院の緊急事態になっても困らないように、あらかじめ考えておく必要があるということです。
院長や長期に働いた職員が退職することになれば、それだけで、退職金を支払う資金の工面も確認しておく必要があります。
「しまった!経理担当者も必要だった!」と驚くことのないように「院長」の交代には誰が紐づいている重要ポストなのかも考えておく必要があります。
それでは、今日はここまで。

