第24話 事業承継は十人十色だということ
先日、後継者になられた方のお話を聞く機会がありました。
その方は先代社長のことをとても尊敬されていて、「社長の言うことは絶対!」というお気持ちがあり、地方の工場長から本社勤務に呼ばれ、「時間をやるから社長になれ」と言われたそうです。
この方は先代社長の家族でも親族でもない従業員だったのです。
⑴ 引継ぐ気持ちを後押しするもの
数千人という規模の会社のトップになるということは、その家族の生活も守らなければいけないプレッシャーもあるでしょうし、さらに、会社の借入金も(約1億円と伺いました)引継ぐということで、考えてしまうことでしょうけれど、この方は「分かりました。」と即答をしたそうです。「社長の言うことは絶対だ!」という気持ちが背中を押したのです。
きっと、それまで先代社長が見せてきた姿や、何十年も支え続けてくる間に目に見えない絆で従業員との関係がとてもよかったのだと思います。そうでなければ、「社長の言うことは絶対…」であっても、急に言われて考えずに自分の人生をかけて守れるだろうか…と感じるからです。
⑵ 引継ぐまで何をしたのか
後継者として意識し始めて、この方はまず「後継者になるための学び」を始めました。
財務のことや、会社の歴史や未来を実現するためのビジョンを自分にしみこませていくことなど、1年かけて後継者塾に通われて「後継者たるもの」について学んだそうです。
そして、自分のブレーンとなってもらえる人を2名、さらに自分の後に後継者塾に通わせ「自分の言っている言葉や考え」が分かるようになってもらうようにしたそうです。
経営者は「孤独だ」と言われることもあるけれど、この方は孤独にならないための準備をしたのだと思いました。
そして、今では社内で意見が分かれたときには、この方たちが自分側について援護してくれるそうですよ。
⑶ 株式過半数を持たない経営者でも…
しかし、この後継者は持ち株を過半数持っていないのです。
後継者がお子さんであれば、いずれ相続という形で大株主である社長から株式が移る可能性もあります。
しかし、相続財産で株式が後継者に移ることはありません。つまり、社員総会の決議で過半数を持っている方に社長を解任される可能性があるのです。
持ち株比率での経営権がないので「約1億円の負債を引継ぐのに、よく金融機関は理解がありましたね。」と質問しました。
金融機関が実のところどう考えたのか分からないけれど、それまでの売り上げが伸び続けていることがよかったのかもしれないとのことでした。
そして、先代経営者が80歳を超えているということもあったのだと思います。
事業が健全で続く限り、返済も確実になっていくからです。
事業承継での「権限の移動」には、持分として「2/3以上の株式、又は過半数の株式を持てるように…」と考えます。そして、後継者の資金面での負担をできるだけ軽くするようなスケジュールも考えていきます。
しかし、この会社のように「会社の実態」や「先代社長の考えと後継者の気持ち」、そして「余裕をもって動けること」でうまく会社の走り続けるスピードを落とさず引継ぐこともできるのです。
何が何でも「これでなきゃいけない…」というものでもありません。
会社も「十人十色」という考えのもと、事業承継も周りを巻き込んで力を合わせて進めていくと良い結果になるのだと分かります。
それが、社内の従業員であっても、持ち株が過半数でなくても大丈夫だということです。
それでは、今日はここまで。

